お笑いは人の命を救う?

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井おさむという芸人さんがいます。

現在48歳。

芸人の世界に入るまでの数年間は、
過酷な経験を強いられました。

彼は幼いころから、日常的に兄と母親から
相当な虐待を受けていました。

それは、彼が20代前半の頃まで続きました。

それに耐えかねた若井さんは、自宅を離れ、
小さな居酒屋を始めることにしました。

開店費用は、父親が出資してくれたのです。

気の小さい父親だったそうですが、
その父親だけは若井さんの味方でした。

実は、若井さんがずっと家を出るのを
ためらっていたのは、
この父親のことを気にしていたからです。

だけど父親がこっそりと、だけど強く家を出るのを勧め、
踏ん切りがついて、生家を離れることになりました。

若井さんは、家を出て目鼻がついたら、
父親をそちらの方に呼ぶつもりでした。

それで、父親には早く離婚する準備を進めさせました。

若井さんが家を出てしばらく後、
父親が兄と母親から暴力を振るわれていることを耳にします。

案の定、若井さんが居なくなったことで、
虐待をする対象が父親に移行した、というわけです。

若井さんはすぐ、一刻も早くあの場から
離れた方がいいと勧めます。

前から忠告してはいたのですが、
なかなか決断できない父親に対し、
この時は、強い口調で言いました。

「本当に、いい加減に離婚した方がいい。…でないと…」

そのあとの言葉は、言いたくても口に出せない言葉でした。

口に出したら、それが本当のことになりそうだったからです。

数日後…

父親が若井さんの元を訪ねてきて、ついに
「離婚することに決めた」
と報告をしてきました。

ほっと安堵した若井さんでした。

ところが、その日の夜に最悪の事態が起こりました。

父親が首をつって、亡くなってしまいました。

報告をしてきた後に、自ら命を絶ってしまったのです。

葬儀の場のことです。

親戚などいる前で、若井さんは兄と母親に、

「お前らが父さんを殺したんや!!」
と訴えました。

しかし、母親方の親族たちには、
まったく取り合ってもらえず、何も理解されないまま
葬儀はただ終わっていきます。

その後、遺産相続のことなど、煩わしい手続きが待っています。

若井さんは、もう関わりたくない、と思ったのでしょうか、
自分から父親の財産相続等のすべてを放棄する旨を
念書に書き、母親らに渡しました。

相続は、自ら放棄した若井さんでしたが、
居酒屋が残っていました。

店だけは、何とかしたいと思っていましたが、
ここで追い討ちをかけるように、
その居酒屋さえも母親方に奪われてしまいます。

なぜなら、あの居酒屋の出資者は父親であったため、
父親名義のままでした。

しかもその頃には、かなり繁盛していた店だったため、
若井さんの喪失感は、さらに深まりました。

若井さんは途方に暮れて、絶望しました。

若井さん、東南アジアの方に向け、
一人旅を始めました。

リュックの中にはロープを入れて…

彼は最後に死に場所を探すための旅に出かけたのでした。

約数か月間、放浪した後、
現地で日本人観光客と出会いました。

よもやま話をしました。

「今、日本では何が流行ってるんですか?」
と若井さんが聞きました。

すると、相手の方は、
「う~ん、そうですねー、
あっ、ダウンタウンの松本人志さんが”ドラマ”に出ますよ」

「…え?」
若井さんは驚きました。

実は、彼は熱心な松本ファンで、
テレビ、ラジオ、本などは、
欠かさずチェックしているほどのマニアだったんです。

だからこそ、その松本人志のドラマ出演は、
若井さんにとって信じ難い話でした。

松本さんが以前から、
「ドラマや映画などは絶対にやらない。オレは笑い一本!」
と主張してたのをよく知っていたからでした。

もう死ぬことを決めていた若井さんでしたが、
そのことがどうしても気になりました。

「松本さんがドラマをやるはずがない」

いったん、日本に帰り、その話が本当かどうかだけ
確認しよう。死ぬのはそれからにしよう。

…そう思いました。

でも、ひょっとしたら、若井さん、
既にこの時は、死ぬことより、
生きる理由を見つけたかったのかもしれません。

そこに「松本人志のドラマ出演」という
生きて確認する「理由」が出てきたのかもしれません。

数か月ぶりに帰国した若井さん、
家に着いて、すぐにテレビをつけ、
ドラマが放送する時間を待ちます。

すると、『伝説の教師』というドラマが放送されていました。

あの観光客が言った通り、
松本人志が主演で、中居正広と一緒に
ドラマに出ていたんです(2000年4月~6月 O.A.)。

脚本など全体が、松本企画の連続ドラマでした。

「本当だったんだ!」

若井さんは、ドラマに見入っていましたが、
この放送は第8話…

このドラマのテーマがその後の
若井さんの生き方を変えることになったのです>>>

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のドラマの第8話…

それは奇しくも、自殺をテーマにした話だったのです。

「自殺は絶対にしてはいけない」

「一番罪深いのは、自ら命を絶つこと」

というメッセージを込めたドラマ。

これをたまたま会った観光客から聞いて、
帰ってきて、すぐ見た回が、
自殺の回だったのです。

若井おさむは、テレビの前で一人号泣し、
自殺を思いとどまりました。

その後、松本人志に憧れてお笑いの道を目指し、
NSC(吉本お笑い養成所)に入って芸人になりました。

十数年前、本当ならあの東南アジアで
終わっていたかもしれない人生…。

自殺しようとしていた芸人予備兵を
松本人志さんとお笑いが救った
とも言えるエピソードでした。

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