去年の夏、飼っていたハムスターに腫瘍が出来て、
手術したのを引き取りに行った時だった。
病院に入る前はカンカン照りの青空だったんだけど、
出てくる時にはすっごいどしゃ降りの雨。
どう見ても通り雨じゃない。
天気予報を呪った。
でも病院の中で待とうか、とも思ったけど、
待合客でいっぱいで、とても居られそうにない。
でも外に出るにも、術後のハムを雨に濡らすなんて冗談じゃない。
しかたないから着ていた男物のサマーセーターのお腹で
ハムゲージをくるみ、10メートルほど離れたお店の軒下を借りた。
そこは小さなラーメン屋さんだった。
移動した私はびしょ濡れになり、ここでタクシーを待つことにした。
5分ほど経ったがタクシーは来ない。
すると出前から帰ってきたと思われるおじさんが店の前に来た。
おじさんの視線がお腹のハムゲージに留まっていた。
食べ物を扱うお店だから、生き物が店のそばにいることが
迷惑だったか、と私は気づいた。
「失礼しました」と私はそこから立ち去ろうとした。
そうしたら、背中からおじさんに声をかけられた>>>
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まだ激しいどしゃ降りの中だった。
おじさんは、私を留めて店の中に入るように促した。
そして、びしょ濡れの私にタオルを渡してくれた。
私はありがたく、ゲージをタオルで拭いていたら、
いつの間にか外に出ていたおじさんが声をかけた。
「タクシー来たよ」
おじさんは店の中に入れて、タオルを貸してくれただけでなく、
どしゃ降りの中、道路に立ってタクシーを止めてくれたのである。
道路にいたおじさんの足元は、もうびしょ濡れだった。
そして相合傘でタクシーまで送ってくれた。
愛しのハムが病気になって落ち込んでいただけに、
おじさんのその優しさが心に沁みた。
雨で顔を叩かれていたから
頬を伝うのが雨なのか涙なのか、
自分でもよく分からなかった。
あの時のおじさん、ほんとにありがとう。
ハムは寿命で死んじゃったけど、
あの出来事はいまだに忘れられません。
あれから何度か、お店に行きましたが、
いつもおじさんの背中は
忙しそうに厨房で動き回っています。
ラーメンだけ食べて、お礼のお声掛けが出来ずに、
おじさん、どうもすみません。