クリスマスの日、かけがえのないプレゼント

b040
クが10歳のときのクリスマス・イブだった。

「クリスマスには、ちょっとぜいたくをして
 ごちそうを食べようね」

何日も前から、母は繰り返しそう言った。

飲食店勤務の忙しい仕事に、どうにか都合をつけて、
母は、クリスマスをボクと過ごす約束をしてくれた。

イブの日の午後、母とボクは、
クリスマスの買い物をするために、
ふたりで街に出かけた。

ボクは小さい頃の交通事故で、
左足が動かなくなっていたので、
歩くためには、松葉づえが必要だった。

肩を上下にゆすり、片足を引きずりながらも、
横を向くと、そこにいつも母の顔がある。

だからボクは、母と歩くのがとても好きだった。

ウキウキとするボクの気持とは裏腹に、
その日の母の横顔は、
笑顔でも隠せないほどに疲れていた。

この日の休みをもらうために、
母は昨夜もかなり遅くまで働いていたのだ。

アパートを出て、しばらくも経たないうちに、
いつもなら横にいる母の姿が突然消えた。

振り返ると、数メートル後ろに
うつぶせになって、母が倒れていた。

「お母さん!」

視線の定まらない母の目が、ボクを探していた。

「どうしたの?お母さん」

ボクの手を握ると、
母は何かを言いたそうにしたのだが、
言葉にすることは出来なかった…

近所の人が呼んでくれたのか
けたたましく救急車がやってきて、
ボク達は病院に運ばれた。

病院の待合室でボクは、なすすべもなく、
椅子に腰かけていた。

看護師さんがやってきて、
ボクの横に腰を下ろした。

「ぼうや、お家はどこ?
 お父さんに連絡できる?」

「お父さんはいません。
 死んだんです。交通事故で…」

「えっ…じゃあ、他に誰か連絡の取れる人いる?」

ボクが黙って首を振ったので、
看護師さんも黙り込んでしまった。

ボクは思い切って尋ねた。

「お母さん、大丈夫ですか?
 会えないんですか?」

看護師さんは、母が脳溢血となり、
今、難しい手術をしているのだと、
少年のボクにも分かるように説明してくれた。

「お母さんも死んじゃうんですか?」

看護師さんは、大きく何度も首を振った。

「そんなことない、そんなことないように
 手術をしているのよ」

けれど、手術はなかなか終わらなかった。

待合室で、ボクは何時間も何時間も、一人で待った。

どこか遠くで、楽しそうな音楽が聞こえてきて、
今日が何の日だったかを思い出した。

『本当なら今頃は、賑やかな音楽を聞きながら、
 母が作ったごちそうを食べていたのに…』

そう思うと、おかしいやら悲しいやらで、
泣きそうになった。

『世界中で、母とボクだけが不幸なのかもしれない』

そうならないように、そう思わないように、
涙をこらえた。

夜になると、待合室の窓の外に、
前に母と行ったことのある教会の
灯りが見えたような気がして、
ボクは思わず目を凝らした。

あの日、教会で母はひざまずいて、
長い間、祈っていた。

「何を祈っていたの?」と聞かなくても、
母がボクのために祈ってくれたことを知っている。

母はボクのために働き、ボクのために笑い、
ボクのために怒って、ボクのために泣いてくれた人だったから…

そんな母にボクは何もしてあげていなかった。

それどころか、わがままばかりだったことを悔やんだ。

母を失いたくなかった。

だからボクは自分でも驚くほど、
真っ直ぐな気持になって、
あんなことを言ったのだろう。

そして、10歳のボクに出来ることは
それしかなかったのだ>>>

スポンサーリンク

↓Facebookからの続きは、こちらからどうぞ↓

ンタさん、サンタさん、いるんでしょう。
 サンタさんは、ボクがいい子にしていたら、
 プレゼントをくれるんですよね。
 そうでしょう?サンタさん。

 ボク、プレゼントいりません。
 もう一生、何もプレゼントはいりません。
 その代り、お母さんを助けてください。
 ボク、いい子になります。
 一生懸命、がんばって、いい子になります。

 もっともっといい子になります。
 だからお母さんを助けてください。

 おねがいします。おねがいします。
 お母さんを助けてあげてください」

あのイブの日から、十数年の月日が流れ、
ボクはいつしか大人になって、就職し、
同じ職場の笑顔のすてきな女性と結婚した。

そして、今年、初めての子供が生まれた。

母は「赤ん坊の頃のおまえにそっくりだよ」
とよく笑う。

ボクが一生プレゼントはいらないと言ったから、
サンタさんからクリスマスプレゼントを
もらうことはもうなかった。

でも、ボクはあのクリスマスの日以来、気づいた。

そして心から感謝した。

クリスマスどころか、
ボクは毎日プレゼントをもらっていたのだ。

愛する人たちの大切な命。

そして、このボクの命。

そう、ずっと毎日、
かけがえのない贈り物をもらい続けてきたのだ。

スポンサーリンク